LAS Production Presents

 

 

 

Soryu Asuka Langley

 

in

 

 

 

starring

Shinji Ikari

 

and

Rei Ayanami

as Misty Girl

 

 

Written by JUN

 


 

Act.2

R E I  

 

-  Chapter 2  -

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?肝試し?」

「そう、肝試しだ」

「そんなん男だけでしておもろいわけないやんけ。わしは行かへんで」

「誰が男だけでするって言った?」

「おっ、ほな相手がおるんかいな。どこの誰や」

「ふっふっふ、トウジの望み通りの相手を…」

「何ぃっ!そ、そ、そうなんかっ?!」

「それでも行かないのか?」

「だ、だ、誰が反対なんかしとるんや。センセか?」

「え?僕が?」

 シンジはアスカとの約束があるから行けないと言おうとしていたのだが、急に話を振られて戸惑ってしまった。

「こらトウジ、シンジに振るなよ。シンジには大事な任務があるんだから」

「あ、いや、僕、肝試しは…実は…」

「おい、どうしたんだ。肝試しはあの金髪たちとするんだぞ」

「え?そうなの?じゃ、参加するよ」

 アスカと一緒だと聞いてシンジは喜色を浮かべた。

「なんや、えらい変わり様やな。そないにあの姉ちゃんが好きになったんか?」

 自分を棚に上げて、トウジがシンジをからかう。

「え、えっと…うん」

 恥ずかしがりながら頷くシンジをケンスケとトウジは呆気に取られて見つめた。

 こいつはこんなヤツじゃなかった。

 誰かのことを好きだと自分から認めるようなタイプではなかったのに…。

 人が変わるほど、あの金髪ねーちゃんを好きになったのかと二人は了解した。

 まあ、この2日間にシンジが経験したことを考えると、少しは変わらないとおかしいだろう。

 これまでなら話すら出来なかったような金髪美少女とお近づきになった上に、

 妖艶な年上の美女にファーストキスを奪われ、セカンドとサードは金髪美少女とキスしたのだから。

 さらに金髪美少女の柔らかな肌を撫でまわす特権を得、そして次には身体をマッサージできる…。

 今このとき、生涯すべての運を使い果たしているのではないかとシンジは思った。

 しかし、もしそれならばそうでもいいとシンジは決意している。

 自分に運があるなら全部使ってしまっても、この夏に賭けたい。

 だからこそ、シンジは親友たちにアスカを好きだということを認めたのだ。

「よぉし、シンジの気持ちはよくわかった。そこでお前に特務を与える」

「特務って、何?」

 

「何なんだよ!どうして僕が交渉しないといけないんだよ!」

 シンジはプンプン怒って歩いていた。

 ケンスケはシナリオを立てただけで、アスカたちとの事前交渉は全くしていなかったのだ。

 トウジは顔を真っ赤にして『わしにはでけへん!』と叫び、結局シンジが彼女たちの元に向かうことになったのだ。

 彼女たちはあの赤いパラソルの下で談笑している。

 ここに女性の不思議さが垣間見られる。

 本人に自覚は無いが、明らかにシンジにベッタリのアスカ。

 そのシンジに一目惚れをしているマナ。

 その二人がにこやかに笑って話をしているのだ。

 ことシンジの話題以外については、別に争う気持ちはさらさら無いらしい。

 そんな和やかな場所に、問題の少年がおずおずと現れたのだった。

 

 束の間の平和は、いとも簡単に破られた。

 

「あの…」

「あ!いか…」

「馬鹿シンジ!よく来たわね!」

「あ、うん」

「あの…」

「差し入れ?」

 マナが何か言おうとすると、すかさずアスカが口を挟む。

 『手土産くらい持って行かんかい!』とトウジが渡したアメリカンドックを入れたプラケースを手に持って、シンジは途方にくれた。

 何故ならシンジの前に2本の腕が突き出されているからだ。

 1本は白く、もう1本は浅黒く日焼けしている。

 シンジとしては白い方の腕にしか渡す気はないのだが、何しろ平和を愛する心優しき少年である。

 そうするとアスカとマナが口喧嘩を始めそうな予感…というより、始まる実感がするのである。

 ひらひらと上下して催促するアスカの白い腕に魅了されながらも、シンジは穏当な解決案を必死に探す。

 そして…。

「あの…、洞木さん、これトウジからです」

「え?私?」

 自分を睨みつける4つの瞳に怯えながらも、好きな男からと言われれば受け取らないわけにはいかない。

「そ、そう?じ、じゃ…」

 おずおずと3本のアメリカンドックの入ったプラケースを受け取ったヒカリだったが、

 親友二人の冷たい視線に晒されて『勘弁してよ!』と叫びたい気持ちで一杯だった。

「ふ〜ん、いいわねぇ。3本も差し入れしてもらって」

「ヒカリって案外食いしん坊だったんだね。私、知らなかった」

「えっ!」

 シンジに手渡してもらえなかった恨みをヒカリにぶつける二人。

「あ、3人分だよ、それ」

 単純に食べ物のことで遣り合っていると錯覚している、相変わらずのシンジがのほほんと言った。

 その途端、二人の表情が一変した。

「そっか、じゃ食べようか」

「ありがと碇君。いただきま〜す」

 ヒカリは力なく首を振った。

 マナの豹変はわかるが、アスカはこれで碇君を好きなんかじゃないって言い張るんだから…。

 本当に素直じゃないというか、超鈍感というか、へっぽこというか…。

 とにかく当座の危機を乗り越えることができて、ホッと溜息をつくヒカリだった。

 

「肝試し?行く、行く!」

 アスカとマナの声がパラソルの中で反響した。

「えぇ〜、みんな行くの?」

 女の子らしく怖い話が苦手なヒカリは少し引き気味だった。

「あったり前じゃない!そんなおもしろそうなイベント逃してたまるもんですか」

 シンジは思った。

 絶対にアスカは夜中のマッサージの件は忘れてしまっていると。

 僕の存在なんて肝試し以下なんだ…。

 まあ、仕方がないか。僕はアスカの子分で彼氏じゃないんだから。

 シンジはそう自分に言い聞かせていた。

 2回もキスをしておきながら、アスカに『アンタは子分』と言われれば実に素直に盲従してしまう。

 普通なら天狗になってしまい、逆に嫌われる元となってしまうのだろうが、その点のみにおいてシンジは得をしている。

「それじゃ、浜茶屋に行きますか。組み合わせ決めないとね」

 マナが思い切り力を込めて発言した。

 可哀相だがどんなに気合を入れても、マナとシンジがペアになることはありえない。

 トウジとヒカリ、そしてシンジとアスカのペアになるように、今ケンスケがくじに細工をしているところである。

 嗚呼、可哀相なマナ。

 

 そんな運命であることとは露知らず、アスカの鼻を明かしてやろうと意気揚揚と浜茶屋にのりこんだマナ。

 トウジとペアになれますようにと、一心に神様にお祈りをしているヒカリ。

 組み合わせなど元から眼中に無い、唯我独尊のアスカ。

 もちろん誰が何と言っても、シンジとペアになるつもりである。

 

 数分後、ケンスケの細工した通りのペアが誕生した。

 

 机に突っ伏しているマナ。

 予想された…というよりも、計画された通りの結果である。

 ヒカリは安堵の表情を浮かべ、そしてトウジの方をチラチラ見ては顔を赤らめている。

 アスカは腕組みをしてにたにた笑っている。

 その笑顔の先にいるシンジは一生懸命働いている。

 この二日間、きちんと働いてないだけに、今日はちゃんと仕事をしようと思っている。

 子分が額に汗して働いている姿を見守るのはいいものである。

 それに実は、アスカはこの夜のお泊りのことを忘れてはいない。

 本音で言うと楽しみで楽しみで仕方がないのだ。

 まるで小学校の時の遠足前夜を思い出すようなわくわく度だ。

 何しろ、シンジがあんなにオイル塗りが巧いとは思っていなかったアスカである。

 きっとマッサージも凄く巧いに違いないと決め付けていた。

 だが、巧いということと気持ちがいいということは微妙に食い違っている。

 その違いをアスカはまったく理解していなかった。

 客観的に見ると、その前日にアスカの肌にオイルを塗っていたヒカリの方が明らかに巧い。

 シンジの手はぎこちなく、まんべんなく塗ってもいない。

 それなのに、シンジの手が背中に触れていると、アスカは頭がくらくらするくらいに気持ちよくなってしまう。

 好きな男に触られているからなどとは思いも寄らないアスカである。

 

 さて、浜茶屋では順番に昼休憩を取るのだが、人のいいシンジはもちろんラストである。

 今日は何故か主人のシゲルが姿を見せないので、バイト3人でキリキリマイになって働いていたのだ。

 シンジは何故シゲルが現れないのか判る気がしたが、トウジたちには浜辺の一件について一言も話してはいない。

 シゲルの名誉というものを尊重したためだ。

 おそらくは今一生懸命になって、失墜した自分の株を上げようとマヤのご機嫌を取り結んでいることだろう。

 それがマヤの作戦だとは少しも疑うことなく。

 女って凄いなぁ…。

 そう考えながら、シンジは残り物の焼きそばを盛り上げた皿を前に奮闘している。

 その時間を見計らってマナが浜茶屋を訪れた。

 もちろん、アスカが沖の方に出ていることを確認してからである。

 200m以上は向こうでゴムボートに揺られている。

 今度こそ二人きりになれる。

 もちろん、彼女の目にはその他大勢は入っていない。

「こんにちは、碇君!」

「あ、こんにちは」

「今からお昼?」

 たどたどしく頷くシンジ。

 その様子を見て、可愛いっ!と思ってしまうマナである。

「いいかな、ここ」

「うん、どうぞ」

 シンジの許可は貰ったものの、何となく真正面に座るのは恥ずかしい。

 もちろん隣なんて論外だ。

 無難な線で、シンジの斜め前に座るマナであった。

 そのシンジは少し会釈して食事に戻る。

 大口を開けて食べないところが、マナの気に入ってるところでもある。

 まあ、もしガツガツ食べていたとしても、痘痕もエクボの類で美化してしまうのは間違いないのだが。

 マナはシンジの顔を見つめた。

 頼りなさそうに見えるけど、優しそうなところがいいのよね。

 焼きそばを口に運ぶ箸を持つ手。

 あの手がアスカの肌を…。

 うらやましいったらありゃしない。

 私も碇君にオイル塗ってもらいたいよぉ!

 ああ、なんとしてもシンジをゲットしたい!

 そのためには…。

 あれ?そのためにはどうしたらいいのかな?

 マナはそこまで考えていなかった。

 今はアスカを出し抜いて二人きりになることで精一杯だったのだ。

 マナは考え抜いた。

 そんなマナの姿を溜息をつきながら見ているケンスケ。

 お冷を持って注文を取りにいきたいのだが、間違いなく邪魔者扱いされる。

 そしてただでさえ低いはずの好感度がまたまた下がってしまう。

 それではいけない。

 したがって、今は遠くから見守っているケンスケだった。

 さて、そのマナである。

 期末テストで回答不可能な問題を相手にしている時とは状況が違う。

 40点が50点になっても大勢には影響しない。

 だが、シンジは…、シンジと恋人同士になれれば、全教科100点よりも価値のあることだ。

 そう思い必死にマナは武器を探した。

 アスカに勝てるもの。

 胸…絶対に勝てない。

 勝てるはずのない胸を真っ先に思い浮かべたところは、マナのコンプレックスの大きさを意味しているのであろう。

 頭…無理無理。

 美貌…これは好みの問題だから。碇君はどっちが好みなんだろ?

 運動…ちょっとだけ負けるかな?

 性格…私の勝ち!

 あんな自分勝手に碇君を引き摺りまわしてる性格ブスに負けるわけがないわ。

 うん、これはいい武器になるわよ。

 私って、明るくて元気だもんね。

 ここをクローズアップして、碇君に認めてもらうのよ。

 よぉし!がんばれ、マナ!

「あ、あのね…」

 その時、何者かが元気よく浜茶屋に駆け込んできた。

「シンジ!」

 びしょ濡れになった紅茶色の長い髪の毛を拭こうともせず、アスカがマナの隣…つまり、シンジの前にどかりと座った。

 身体と髪の滴がぽたぽたと床に滴り落ちる。

 こういう乱暴な座り方ができるのが浜茶屋のいいところだ。

「私、ウーロン茶!」

「ちょっとアスカ。碇君は休憩中なのよ」

「うっさいわねぇ」

 アスカは横目でちらりとマナを見て、すぐに視線をシンジに移した。

「ウーロン茶!」

「うん、ちょっと待って」

 素直に席を立つシンジ。

 マナはアスカの方を睨みつけた。

「人権蹂躙!」

「子分に人権なんかないの」

「ひっど〜い!で、どうしてアスカここにいるの?沖の方にいたじゃない」

「あ、シンジが休憩だってこと思いだしたから」

 アスカはけろりとして言う。

「子分の様子は親分として把握しておかなきゃね」

 マナは絶句した。

 それだけのためにあの距離を一気に泳いできたのか。

「ゴムボートはどうしたのよ」

「持って帰ったわよ」

 アスカは浜茶屋の表を顎でしゃくった。

 確かに表に転がっている真っ赤なゴムボート。

 2m以上はある。

「嘘…」

 あんなふわふわした大きなものを持って、どうやってあんなに短時間で泳いできたというのか。

 そこにシンジがグラスとスポーツタオルを持って戻ってきた。

「はい、タオル」

「あ、アリガトね」

 マナは思った。

 何よ、その態度は。せっかく碇君が塗れたままの髪が可哀相だと思ってタオル持ってきてくれてるのに。

 『アリガトね』ってたった一言。

 しかもそっけなく受け取るだけなんて、アスカには感謝の念って感情が欠如してるのよ。

 本当に欠陥人間だわ。

 そんなのに碇君を独占させてなるもんですか。

 その碇君は“そんなの”にグラスを手渡す。

「はい、100円」

 アスカは隠しポケットから100円玉を出して机の上にばちんと置いた。

 まるで西部劇のガンマンである。

 アスカはグラスに口をつけて、一口だけ啜った。

 そして、そのグラスをシンジに押しやる。

「え?何?何か入ってた?」

「ウーロン茶よ普通の」

「そ、そうだよね」

 一瞬にして吹き出た冷や汗を抑えながらシンジが応える。

 親分に失礼なものを出したのではと、狼狽しかけたのだ。

「あとはアンタが飲みなさいよ」

「え?」

「そんなに一杯食べるんだったら飲み物くらい用意しなさいよ、馬鹿」

「あ、ありがとう」

 シンジは何気なくグラスを取り、ウーロン茶を飲んだ。

 その時。

「あああっ!」

 マナが奇声を上げ立ち上がった。

 回りの客が何事かと注目する。

 その視線に気付き、恥ずかしがりながら席につくマナ。

「何よ、大声出して」

「だって…」

「だって、何よ」

 シンジも気遣わしげにマナを見ている。

 その視線を受けて俯いてしまうマナ。

「さっさと言いなさいよ。何があったのよ」

 マナはぼそぼそと口の中で呟く。

間接キス

「はい?」

 マナは顔を上げた。

 そして少し頬を膨らませて、今度ははっきりと言った。

「アスカが口をつけたのを碇君が飲んだ」

 真っ赤な顔をしているマナに、アスカとシンジは怪訝な顔を向けた。

 それくらいのことが何なのよ。

 私なんかシンジのヤツに舌まで入れられちゃったのよ。

 思い出しただけでも、屈辱で身体がぽっぽと熱くなっちゃうわよ。

 シンジも同様だった。

 間接キスかぁ。

 あんなキスをしてなかったら、僕だって真っ赤になってるとこだよね。

「ど、どうして、二人ともそんなに平気なのよ!」

「あ、それはね」

 ずこっ!

「痛っ!」

 足元で鈍い音がし、シンジが顔を歪めた。

「碇君、どうしたの!」

 シンジはむこうずねを押えて、アスカの顔を見た。

 彼女はそ知らぬ顔をしてそっぽを向いているが、横目でじろりとシンジを睨んでいる。

 目は口ほどにものを言う。

 さすがにシンジはあのキスのことを話すと、酷い目に合わされることを察知した。

「は、はは…。なんでもないよ」

「そ、そう?」

「ほら、さっさと食べなさいよ。休憩時間なくなっちゃうわよ」

「あ、うん。じゃ」

 ひ弱に見えるが、さすがに男の子である。

 二人なら見るだけでおなか一杯になりそうな量の焼きそばを食べるシンジ。

 そのシンジの様子を微笑をためて見ているアスカ。

 マナも同様である。

 二人の美少女に見つめられても食欲が衰えていないのは、生来の鈍感さ故だろう。

 二人の視線に気が付いても『食べたいの?』という言葉が出てきそうだ。

 

 しばらくして…。

 その3人のテーブルに、人影が落ちた。

 マナがそちらを見上げると、少年が立っていた。

 銀色の髪に、赤い瞳。そして、唇には微笑を蓄えている。

 美少年といってもいい顔立ちだろう。

 確かにマナも『うわっ、綺麗』と思った。

「へぇ、随分と食べるんだね、君は」

 シンジが顔を上げた。

 何だ、男か。

 見知らぬ顔に、シンジは視線を皿に戻した。

 目の前の食事とその向こうにいる大好きなアスカの存在が、新来の客への応対を御座なりにした。

 彼の顔もほとんど見ていなかったのだ。

 ほとんど無視された新来の客は、次にアスカの方を見やった。

「へぇ、そっちの彼女は外国の人なんだね」

「うっさいわね、向こう行きなさいよ」

 視線をシンジから外さずに、アスカは冷たく言い放った。

「ふ〜ん、日本語が巧いんだね。この海岸もグローバルになったもんだよ。

 あ、君は日本人だよね」

 興味を持った順番に声をかけていきその都度相手にされなかった美少年は、マナに視線を向けた。

 思わずドキッとしてしまうマナ。

 い、碇君もいいけど、この人もいい…かも。

 他の二人と違って、まだまだ心が定まっていないマナであった。

「う、うん。そうだよ」

「へぇ、僕はカヲル。君は?」

「マナよ」

「そうか。マナさんか。いい名前だね」

 カヲルはアルカイックスマイルをさらに深くする。

 瞬間、マナはその微笑に魅せられた。

 どすん!

 その時、水の入ったコップがもの凄い勢いで置かれた。

 勢い余ってテーブルに零れる水。

「いらっしゃいませ」

 どう聴いても不機嫌そのもの、絶対にいらっしゃって欲しくないという気持ちが見え見えの口調でケンスケが言った。

 その声でマナがかかりはじめていた魔力は解けた。

「おやおや、乱暴だねぇ」

「何にします?」

 つっけんどんに注文を聞くケンスケ。

 しかし、カヲルはそんなことに気も留めていない。

「そうだねぇ。焼きそば…かな?何なら君のを一緒に食べても…」

 我関せずと焼きそばを頬張っていたシンジに微笑みかけるカヲル。

「アンタ馬鹿ぁ。シンジは疲れてんの。しっかりと食べないといけないんだから!」

 アスカがじろりとカヲルを睨んだ。

「怖いねぇ。じゃあ、焼きそば…でいいよ」

「わかりました。では、こちらの席へどうぞ」

「ここでいいよ」

「ダメ!向こう行ってよ、アンタ関係ないでしょ」

「お客様、どうぞこちらへ」

 ケンスケが精一杯気張って告げる。

 しかし、アスカの叫びもケンスケの圧力にもカヲルはさして気にしていないようだ。

 にやにや笑いながら、ケンスケの示したテーブルに向かった。

「何よあれ。変なヤツ」

 アスカの呟き…というには大きい声だったが…に、ケンスケが答えた。

「あいつ、ここじゃ有名人なんだよ。去年も来てたからね」

「有名人ってタレントとか?」

 ケンスケを毛嫌いしていたマナだったが、流石にこの話題には仲間に入りたいようだ。

「芸能人とかじゃないよ。ただこの海岸にやってきては、性別を問わずに口説くので有名なんだ」

「性別を問わず?」

「ああ、結構イケメンだしさ、引っ掛かるヤツも多いそうだ」

「わっ!危なかったね、碇君」

「ん?」

 碇シンジ、食事中である。

 ケンスケの説明をほとんど聞いていなかった。

「いいから、アンタは食べてなさいよ。私が聞いておくからさ」

「うん、ありがとう、アスカ」

「いいってことよ」

 流石に親分よね、私って。子分の健康管理には気を使っているわ。

 そう考えているのは、当の親分子分だけである。

 マナは嫉妬に身を焦がし、ケンスケは『いいぞ、がんばれシンジ』と己の幸福のために二人を応援していた。

 マナがシンジをあきらめれば、ケンスケを振り向いてくれる可能性が少しは期待できるからだ。

 そのためには、シンジとアスカ、トウジとヒカリの2組にとっととカップルになってもらわなければならない。

 だからこその肝試しではないか。

「で、それから?」

「あ。ああ、引っ掛かっても数回デートしたらもう相手にしなくなるんだ」

「わっ!じゃ、次々に相手を変えるってこと?」

「ああ、そうなんだ。で、ついた仇名が“渚のシンドバット”」

「ぷっ!何よそれ、変なの」

「昔の歌にあったよね、それって」

「そうなんだ。まあ、アイツの苗字が“渚”っていうから付けられたんだけどね」

「そうか、ねらわれないように気をつけないとね、ね!碇君」

「ちょっと、シンジは食事中なんだから話かけないでよ」

「何よ、あんなのに引っ掛かったら大変でしょ」

「あんな変なのに引っ掛かるわけないじゃない。馬鹿みたい」

 危うく引っ掛かりそうになっていた馬鹿は黙り込んでしまった。

 ひとまずカヲルからマナを守れたことに気をよくして、ケンスケは別のテーブルに向かった。

 

 “あんな変なの”は、ケンスケに指示されたテーブルで来るはずもない焼きそばを待っていた。

 ケンスケがオーダーを通すのを完全に忘れていたのだ。

 だが、カヲルは別に苦情を言うわけでもなく、周囲の人々を微笑みながら物色していた。

 今度の相手は誰にしようかと。

 次の餌食は…。

 その微笑みの陰に、獲物を狙う獣のような冷たい目が隠されている事を誰も知らない。

 

 

 

TO BE CONTINUED

 

 


<あとがき>

 レイ編その2です。

 って、タイトルロールのレイがまだ出てきてない!きっと最後まで出てこないから、Misty Girlなんだ(嘘)。

 酷いわ。シクシク。いつになったら私を出してくれるの?

 あれ?今誰か…?今回はもう一人のゲストが登場しました。

 渚カヲル君です。数々のWEB小説に登場してはLASを妨害してきた、国際手配のテロリストです。

 まあ、今回の二人は鈍感同士ですから彼に振り回されることもないでしょう………多分ね。

 

2003.09.04  ジュン

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